下弦の月――For The Dying Moon――

日々胸のうちで生まれる「ざっそう」の墓場(「ざっそう」は、「雑草」、「雑想」、どちらでも。価値は大して変わらない)

「恒久平和」もイデオロギーに過ぎない

2009/01/14 11:39
 ブログ「博士の独り言」で、『民主「自虐史観固定法案」一考』という記事が書かれている。同記事は『民主党:戦争の真相究明重視し、恒久平和調査局設置法案を共同提出』という記事に対して書かれたものである。
 記事に曰く、


 法案は、先の大戦の事実に対する真相究明について、ドイツ、米国といった諸外国と比べ、日本は真相究明の努力が不十分であったとの観点に立ち、大戦ならびにそれに先立つ一定の時期における歴史的事実について公正中立な立場から調査し、理解を深めることは世界の諸国民との信頼関係の醸成を図り、国際社会における日本の名誉ある地位の保持及び恒久平和の実現に資するとの考えで取りまとめられた。


 とのことである。そしてこの目的のために、「国立国会図書館に恒久平和調査局を新たに設置し、戦争の実態調査を行い、結果を国会に報告する」という。

 この法案を、「博士の独り言」の筆者は「いわゆる、自虐史観が覆(くつがえ)ることのないように、いわば、永久的な固定化を謀(はか)る法案だ」と書いている。これは、同記事筆者でなくとも、法案を提出した議員、市民団体、一部の教職にある人間以外には「またか」と呆れさせ、嫌でもその意図が見えるものだろう。「博士の独り言」では、さらに法案にある歴史の真相調査の内容まで書かれている。


 同法案が掲げる「恒久平和調査局」の主な調査内容には、(一)として、「今次の大戦に至る過程」と「今次の大戦の原因の解明に資する事項」(開戦にいたる課程と原因の調査)。(二)として、「本籍を有していた者以外の者に対して行われた徴用その他これに類する行為及びこれらの行為の対象となつた者の就労等の実態に関する事項(日本戸籍を有していないものの徴用の調査)と。

 また、(三)として、「戦前戦中期における旧陸海軍の直接又は間接の関与による女性に対する組織的かつ継続的な性的な行為の強制」における「被害の実情その他の性的強制の実態に関する事項」(従軍慰安婦における性的な行為の強制(直接・間接的関与含む)調査)。(四)として、「戦前戦中期における旧陸海軍の直接又は間接の関与により行われた生物兵器及び化学兵器の開発、実験、生産、貯蔵、配備、遺棄、廃棄及び使用の実態に関する事項」(日本軍の譲渡化学兵器の調査)。

 さらに、(五)として、「戦前戦中期において政府又は旧陸海軍の直接又は間接の関与による非人道的な行為により旧戸籍法の規定による本籍を有していた者以外の者の生命、身体又は財産に生じた損害の実態に関する事項」(日本国民を含まない旧日本軍の非人道的行為で出た損害の調査)。さらに、(六)として、「戦前戦中期における戦争の結果生命、身体又は財産に生じた損害の実態に関する事項」(戦争による損害の調査)等々。これらを徹底的な史料“調査”によって旧日本軍の“悪行”を調査する、とするものである。


 これらを、外国人を含む学識経験者の協力を得ながら調査していくとのことだ。

 調査内容の偏りからもわかるが、これは最初から日本の戦争犯罪、日本軍の非道を調査するのが目的である。事実調査、真相究明と言いながらも、実際はすでに答えは出ている。

 この記事の題に書いたように、「恒久平和」という考えもイデオロギーに過ぎない。この法案は、最初からイデオロギーに染まっている。以下では「恒久平和」というイデオロギーについて書いていく。

 まず、「平和、平和」と唱えていても平和にはならない。これは誰にも明らかなことだ。だから、「平和を実現する」と言った場合には、当然「どのようにして平和を実現するか」という問題が出てくる。
 今回の法案を提出した人々の前提になっている「恒久平和」実現のための方法とは、「軍事力を行使しない。すべて話し合いで解決する」というものだろう。そして、そのためには「日本が軍隊を持たず、過去の戦争は絶対に誤りであり、日本はその罪を永遠に謝罪し続けなければならない」と考えている。実際にそう彼らが口に出すことはないだろうが、上の法案から読み取れるのはそれ以外にない。もし彼らの考えが違うというのなら、言動不一致もいいところだし、目的遂行のための能力に著しく欠けていることになるから、さっさと政治家稼業などやめてしまうべきだ。
 しかし、平和を実現するための方法は彼らが信じているものだけではない。むしろ、僕は彼らが信じている方法でどこかの国が平和になったというのを聞いたことがない。逆に内乱になったという話なら、高校生が習う日本史にも出てくる。
 戦国時代というのは、学校で習う歴史の授業では甚だ不思議な時代である。正直、僕は日本史の授業の中ではどうしてあんなに状態になってしまったのかわからなかった。応仁の乱の結果だと言うことはできるが、では応仁の乱が起きた理由は? 乱が終わった後、どうしてすぐに秩序が回復できなかったのか? ということは習わなかった。どうせ大学に入ったら忘れてしまうような数字だけを聞かされていたわけである。
 理由は簡単だ。まず、応仁の乱が起きたのは、将軍の跡継ぎ問題である。回避方法は、現将軍が断固とした態度で跡継ぎを決めるべきだったということ。そして、応仁の乱の後秩序が回復しなかったのは、室町幕府にその力がなかったから。力というのは軍事力であり、現実としてそれ以外の何物でもなかった。
 室町将軍というのは、元々は他の大名と同格だったが、征夷大将軍になることで他の大名たちより上の立場に立っただけの存在だ。「だけ」というのは、つまり他の大名には口には出さないが「あいつも昔は俺たちと同格だったんだ」という意識があったということだ。これが原因で大名統制が上手くいかず、パワーバランスが崩れ室町幕府は瓦解し、戦国時代になると将軍とは名ばかりの放浪者に成り下がってしまったというわけだ。
 秩序を回復し、徳川幕府の三百年近い平和を実現する礎というか、そこに続くレールをつくったのは織田信長であり、彼が平和のためにとった方法は軍事行動だった。それも、どの大名の逆らえない最強の軍事力によって天下を統一するというものだった。信長本人は道半ばで倒れたが、彼の敷いたレールの上を、秀吉も家康も独自のアレンジのようなものは加えていたが、基本的に離れることはなかった。
 信長のとった軍事行動もまた「恒久平和」を実現するための方法であったし、江戸時代というその方方が有効であったという証拠もある。
 だから、今回の法案を提出した議員たちの頭の中にある「恒久平和」実現のための方法はただ一つの方法ではないということが、少なくともいえることになる。実際には、必要な時に軍事力を行使せず、話し合いに縋ろうとする態度が大変な災厄を招いた例は簡単に見つかるわけだが、ここではとりあえず「唯一の方法ではない」といっておくに留める。
 唯一の方法ではないにも関わらず、「恒久平和」のためと称して自分たちの方法論を絶対化しようとする態度、それも歴史を捻じ曲げることも辞さないような態度は戦前の皇国史観や共産主義のマルクス史観と同じでイデオロギーの類である。
 彼らが「真相究明」を謳っていても、信じるに足りないのは明らかだ。例えば、彼らは日本が悪かったということを歴史事実として固定したい。それを世界に公表したいわけだが、もし調査の中でそのような願望を否定するような事実が明らかになったとして、彼らはそれを認めるだろうか? これを考えてみればいい。答えは、「決して認めはしない」である。
 なぜなら、彼らは「恒久平和」のために歴史を調査するのである。彼らの考える平和を実現する方法は、「軍事力を行使しない。すべて話し合いで解決する」というものであり、軍事力を行使した戦前の日本は悪であるという認識が絶対に必要だからだ。その要求を満たすための調査である。初めから彼らにとって答えは決まっているのである。
 歴史の事実がどうであれ、同法案を提出した議員たちは信用できない。イデオロギーに染まった政治屋は災厄の種である。早めに摘んでしまうべきだ。



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